ここまではNとOだけから成る原子団の話だ。これからは視野を広げて一般の原子団に於ける安定系を考える。それは、「陰と陽は交互に存在するのが安定系」となる。この安定化力の大小は陰陽の電荷(量)に比例する。換言すれば、イオン結合性がどれだけ加われるかが安定化力の判断基準になる。

 解りやすい例として陰陽が交互に存在せず、逆にクーロン斥力による不安定化が発生する原子団を例示する。5,6,7は陰電荷を帯びた原子が連結する例だ。孤立電子対の数と陰・陰の反発力は比例するだろう。エタン(7)では孤立電子対数がゼロ、更に水素との電気陰性度の差が小さいので本反発力はほぼ無視できる。8~13は陽電荷を帯びた原子が連結する例である。7は双方のNがOに電子対を供給した配位結合(赤表示)が在る。9は片方が配位結合・一方は二重結合、10は双方が二重結合だ。N,N間の反発力は8>9>10となる。8,9は室温ではN-N結合がラジカル開裂した状態が優勢である。10が存在しないのは一酸化窒素の方が安定型だから。11,12,13が安定的に存在する理由は配位結合が存在しないので陽電荷(量)が小さいからである。配位結合プラス二重結合の(8,9)は陽電荷間の反発力が増し存在が危うくなる。

 後述の予定だが配位結合で電子対を供給された方の原子は電気陰性度の値が最低のp軌道に電子対を収容できる。それは二酸化窒素では共鳴と酸・塩基相互作用による安定化を効率的に実現させるためだ。

 配位結合が成立することでの安定化効果を二酸化窒素とオゾンを比較すると、二酸化窒素がオゾンを上回る。理由は電気陰性度の値が小さいNから大きなOに電子対を供給する配位結合が成立したからである。これで生じたクーロン引力による結合(イオン結合)は大きな安定化エネルギーとなる。前項(-4)で記した二酸化窒素のNのsp2混成状態が有利となる理由と同じである。陰・陽の電荷(量)は多いほど大きな安定化エネルギーが得られる:クーロン力は双方の電荷の積に比例し距離の二乗に反比例するからだ。

一酸化窒素は高圧下や低温の固体状態では可逆的に二量化し反磁性のN2O2を生成する(cis体のほうが安定)cis体:N-N結合長:218.3pm、<NNO:110.0°/ 鈴木仁美著 窒素酸化物の事典 丸善(2008)